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ムーン・パレスとアメリカの光の色、乾いた影
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一度だけ行ったアメリカの記憶がよみがえる。
ロスまでの長い長いハイウェイ、砂けぶりの向こうに見える大都市。
ひとけの少ない大きな街とそれよりさらに大きい沙漠。

イラストレーター佐々木悟郎さんの『L.A.』には
ゴローさんがカリフォルニアのデザインスクールに通った、20代はじめの思い出が描かれている。
まぶしい光がパームツリーをかすませる。影が深くない。
うすむらさきと淡いブルーが反射する、カリフォルニアの光の色。
パサディナ、ローズ・ボールの日曜マーケットの帰りに見たパームツリーを、同じように私も
乗せてもらった車の中から見ていた。
あの光の色と同じだと思った。

それからスタバのでかいポピーシード入りレモンマフィンを思い出した。
あれは芳香剤みたいな味でまずかったな。笑。でもこれぞアメリカだわあとなんか思った。


ムーン・パレスを描いている間、ずっとアメリカの空気を思い出していた。
一回、行っただけ、
でもその強い光と乾いた空の感触はずっと体にのこっている。


『船を建てる』
いつまでたってもこの本を俯瞰することはできないけど
いつでもある日急に、アメリカのどこかに、ぽいっとほうり出される。
ムーン・パレスを読んでまた思い出した。
そしてまた読み返す。

モンタナで釣りをしている少年と弟
ロータリーが廻るクジラ解体工場
甘粛省の杏の/フロリダ州の桃の
木の下で、少年と少女は出会う

これらはアシカの物語で
みんなアシカ大王にお願いをする
どうせあのひとが死んじゃって悲しむのだったら
最初から出会わなかったことにして下さい、って、でもなぜか
無いはずの部分が痛む

ジャックとベティが出会ったこと。
ボーイ・ミーツ・ガールの物語。人々が出会うということ。
どこにいてもいつの時代でも少女は少年に、少年は少女に出会う。

「死んじゃったらもう会えない でも
100年経ったらだれもいないわ
だからいつかどこかでまた会えるわ」と、

乗り合わせた船、それははるかに大きな宇宙船地球号、みたいなもので、
偶然に出会って、ひととき同じ時間を共有して、
そしてまた旅立っていく。
日常が交錯する瞬間、一時、同じ場所を目指したものたち。
大きな船の中で生まれて出会って死んでいく
それは悲しいことではなくて出来事はただ淡々と行われていて、
からっと乾いた風に乗って、ずんずん進んでいく旅。

そんなことを
あのアメリカの、大きすぎる大陸と、湿り気のない無情のような大地に立ったことを、
思い出していました。
by t-saekit | 2009-07-18 19:45 | 雑食の本棚


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